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■デジクリトーク

無意識に個性を想像させるセンス

 

海津宜則

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エイギョウマンではない私は、当然ながら名刺交換は頻繁ではない。だから印

刷した名刺を持たなくなってしまった。じゃ、名刺はないのか? というわけ

にもいかないので、もっぱら手持ちのプリンタで、小ロット手作り名刺に徹し

ている。八面付けして印刷したA4用紙をカッターナイフで一枚ずつ切り取っ

ているのである。なんと非合理な世界だろうか。でも本人は楽しんでいるなん

て言ったら不気味だろうか。

 

不気味とは無関係だが、柴田編集長は『怖い人』というのが一般的な(?)イ

メージだそうだ。本物を知っている私には、ちょっと信じがたいが、そう思っ

ている方が多いらしい。これは、もしかすると服装からきているのかもしれな

い。柴田さんは黒が好きなようだ。いつも黒の大きめのジャケットに身を包ん

でいるという印象が私の中に焼き付いている。もしかすると、この服装から来

るイメージが増幅されて『怖い人』に繋がっているに違いない? などと勝手

に考えている私である。

 

だいたい、その道の筋の方は別として、本当に『怖い人』っていうのは、普段

は穏和であることを、多くの人が気が付いていない。柴田さんを『怖い人』と

思っている人は、きっと柴田さんの鋭い突っ込みを受けて、アタフタしている

人ではないか……と、私は不気味に笑いながら勝手に想像するのであった。

 

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夏場に出会った人の冬場の服装が想像できれば、その人は強烈なセンスの持ち

主のはずだ。当然、その逆も然りである。

 

これはなにも、お気に入りの有名ブランドで身を固めることを言っているわけ

ではない。普通は、ソレらがイレギュラーのはず。そもそも、コンピュータ関

連機器を購入するために仕事をしているとしか思えない、昨今のデジタルクリ

エーターにとって、被服は二の次と言いきっていいだろう。少なくとも、私は

……悲しいかな……そこまで手が(お金)回らない。アーティーストが蔓延し

ていても、衣食住に仕事、すべてに湯水のようにお金をかけられる人なんて、

そう多くはないはずだ。これは、単なる私のヒガミかもしれないが……。いや

いや、徒花(あだばな)に実は成らぬもの、と(?)言うではないですか。

 

ところで、テレビドラマに出てくるような、イカニモ! というグラフィック

デザイナーには胡散臭さを感じたりする。どう考えても仕事をしているように

は思えないほど、次から次へと事件や複雑な対人関係に巻き込まれ、日本全国

を飛び回っているのに、豪華マンションに住み、衣服は高級品……いくらフィ

クションでも、もうちょっとリアルな描画を望みたいものだ。もっとも、リア

ルに徹すると哀れになっちゃうのは火を見るよりも明らかだが……。

 

しかし、あんな世界を憧れて、デザイナー目指してしまう人が多いんだろうと

考えると、罪な世界だな〜と感じてしまう。まっ、テレビそのものがサブリミ

ナル効果の固まりみたいな世界だから、しょうがないのかもしれない。でも、

デジタル武装すれば誰でも成れるっていうもんじゃない。いまだに成りきれな

い私が言うんだから本当の話だって言っても、説得力がないのが悲しい。

 

さて、洋服というのは、人柄をさりげなく反映しているような気がする。Aさ

んの服の趣味は素敵だか、Bさんがそれを真似たらピエロになってしまう。な

んてこと誰しも想像出来るはずだ。もちろん、素敵なAさんの服装はピエロ風

なわけではない。共生の話を前回書いたが、衣服も主人と共生しているのかも

しれない。もちろん流行の服というものはいつの時代にもある。しかし、雑誌

から抜け出たような、非の打ち所のないファッションほど不自然なものはない

のではないだろうか。

 

そもそも、アレって雑誌の中のモデルさんと共生しているんだと、私は思って

いたりする。八頭身のモデルさんに似合う服が、どう考えても六等身以下の我

々に似合うはずもないと、冷めた意見を、中学生の頃から持ち合わせていた私

は、アパレル業界の敵である。だからというわけではないだろうが、最近のフ

ァッション雑誌のモデルさんは、普通の人が多く起用されている。なるほど。

 

さて、現実の問題に目を向けてみると、例えばTシャツにジーンズといったラ

フな服装も、当然ながら人それぞれに着こなし方が違う。その微妙な着こなし

方を観察していると面白いことに気が付くはずだ。Tシャツをジーンズの中に

しまう人、出す人だけでも二分される。タイトなサイズが好きな人、ラフなサ

イズが好きな人……こうして色々と分類してゆくと、とどまるところがなくな

ってしまうが、趣味の問題は別として、一応、誰でも、それなりに着こなして

いる事が分るはずだ。

 

もちろん、ダサイセンスもセンスのうちを含んでの事だが。そして、ソレがそ

れぞれの個性に繋がっていたりすることに気が付くのに、さして時間はかから

ないはずだ。例えば几帳面な人とラフな人とでは同一のファッションでもずい

ぶん違った着こなしになっているはずだ。もちろん、ラフだからダサイという

わけではない。逆にダサイと思っても、そう思っているのは貴方だけというこ

ともある。案外コレが一番多いようだ。

 

実は、誰しも、無意識のうちに自分に似合うと錯覚している服装に落ち着いて

いるのではないだろうか。だいたい、あんたの服のセンスはダサイ! なんて

誰も指摘してくれない。だから世の中、丸く収まっているのだが……。もし、

はっきりモノを言う友人がいたら大切にしたほうがいい。

 

ところで、大人の世界では、突然大変身したりすることがタブー的になってい

ないだろうか。その昔、ビートルズが突如出現し、男が長い髪をするというフ

ァッションが流行りだした。当初の社会では、変態的なイメージで見られてい

たが、それもなんとなく認知されるようになり、既に何でも有り状態であると

言っても過言ではない。髪の毛の色が金だろうが紫だろうが、あえてその人を

振り向いて再確認するといったストーカー的行為はしなくなったはずだ。

 

余談だが、当時私のクラスでは、男子生徒の長髪問題について教職員も入り乱

れて、賛成派と反対派が一触即発状態であった。賛成派は一部の革新的な女生

徒であった。ビートルズには無条件降伏していた私は、当然あこがれのマドン

ナもいる賛成派に位置しなければならないのだが、反対派に隠れるように位置

して、一切意見を言わないという典型的な日本人の国際的マナーを既に身につ

けていた。だからフラレタのかもしれない。長髪は悲しい青春だ。

 

話を戻すと、コレはもちろん無理に髪の毛を伸ばしたり、カラーリングしたり

すべきだという意味ではない。今はなんでも有り状態なので、楽しく自分自身

をモチーフとして遊んでみても面白いのではないか? ということである。も

っとも、趣味人なら別だが、いくら自由になったとは言っても、男がスカート

を身につけることは、まだまだ法的にも世間的に認知されていない。余談だが、

雄は雌になりきれなかった物体であることは、既に生物学的に確認されている

事実である。何かの本で読んだが、ほとんどの雄は雌になりたい願望を、少な

からずもっているそうである。それ割合が多いと、ある日突然怪しい美しさを

漂わせるようになるらしい。

 

トレードマークの帽子をいつも被っているイラストレータのRさんが、あるパ

ーティーへ帽子を被らずに参加されたことがあった。そして私は、Rさんから

声をかけられるまで気が付かなかったのである。なんとも大変失礼な事をして

しまった。しかし、私にとって、Rさんの眉毛より上は見たことがなかったの

で、分るはずもなかった。

 

ところが、帽子を被っているわけでもないのに、スーツ姿のメーカーの方とは

何度名刺交換をしても顔を覚えられないことが多い。そんな経験はないだろう

か。一年のうち六回も『はじめまして』と名刺交換し、最後はしびれを切らし

た相手から、『お会いするの六回目ですよ』と言われた私は、次の瞬間、慙死

の土左衛門と化してしまった。逆に、スーツ姿であっても、一発で脳裏に焼き

付いてしまう方もある。いったい、人は人をどこで識別しているのだろうか?

個体差の違いをどこで記憶しているのだろうか?

 

これについては、私なりに勝手に結論付けたことがある。それは、服装も含め

た個性というエナジーを、人はどれだけ第三者に発しているか? ということ

である。同じに思えるツーツ姿も、よく観察してみると何かが違うのである。

それこそが、その人の個性そのものである。初対面でも記憶に残る人というの

は、別に高額な服装を身につけているわけでもなく、どこかワンポイントその

人らしい何かが演出されているのである。それが、夏場に出会った人の冬場の

服装が想像出来ることに繋がるのではないだろうかと、私は感じている。

 

じゃ、お前のワンポイントは何なんだ?と、突っ込まれると瞬間フリーズして

答えに詰まってしまう。そもそも私はおしゃれとは無縁だからだ。ただ、一つ

だけ言えることは、ワンポイントがキラリと光る人は、そのワンポイントを無

意識に演出しているということではないかと。だって、意図的な演出は嫌みで

しかないし、誰が見てもバレバレである。つまり、これこそが、その人のセン

スそのものなのではないかと。

 

と、言うことは、私にはキラリと光るセンスが、まるっきり無いことになる。

やっぱり……そうか!

 

(小さい声で)すいませ〜ん。センスを一人前くださ〜い。

 

【かいづ・よしのり】

グラフィックデザイナー/イラストレーター。

http://www.kaizu.com

mailto:yoshinori@kaizu.com

 

・「怖い人」といわれている柴田ですが、いつのまにか周囲はわたしより若い

人ばかりで、「怖い人」というロールプレイングが年配の役割だから、なんち

ゃって。もう10年以上つきあいのあるディジタル・イメージの長田代表だっ

て、いまだに「柴田さんが最初取材に来たときは怖かった」というネタを使い

回ししているほどだから、初対面はこわいのかも。でもいいや。(柴田)

 

 

【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0434  1999/10/05.Tue.発行

http://www.dgcr.com/

以上より転載許可を得て掲載しました。海津宜則さんありがとうございました!!